滋味深く旨味が強い!「天橋立育成あさり」
阿蘇海の良質な植物プランクトンを食べて育ったアサリは滋味深く、身はぷりっぷり!
今回はそんな「天橋立育成あさり」と、育成に奮闘する漁師さん達をご紹介します。
「天橋立育成あさり」とは
「天橋立育成あさり」とは、阿蘇海に浮かべたイカダの下で、栄養たっぷりの植物プランクトンを食べて育った、阿蘇海生まれのアサリです。このアサリを育てているのは、府中にある溝尻集落の漁師さんたちで結成している「府漁協溝尻育成あさり部会」の皆さん。
なぜ、阿蘇海でアサリの育成が行われているのかというと、かつて宮津湾では天然のアサリがたくさん獲れていました。特に水道の辺りでは小舟に乗り「じょれん(鋤簾)」と呼ばれる、熊手に籠が付いたような道具で海底の砂地をかくアサリ漁が有名で、その漁の様子は春の風物詩でもありました。
ところが約20年前から段々と天然アサリが獲れなくなってしまいます。
アサリの育成指導をしている宮津市の京都府農林水産技術センター 海洋センターの田中雅幸さんにお話を伺うと、昔は日本のどこでもアサリが獲れたのですが生息地の減少や漁場環境の悪化などにより2000年頃から全国的にアサリが激減してしまったのだとか。
宮津も例にもれずアサリが獲れなくなってしまったのです。
そこで2008年頃、溝尻集落の漁師さんたちが何かできないかと海洋センターに相談をもちかけたことから“育成”がスタート。先に成功していたトリガイの育成にヒントを得て、漁師さんらと共に実験を重ね、2013年から一定量の水揚げができるようになりました。
イカダが浮かぶのは溝尻集落から200mほどの沖。なぜこのポイントなのかを先述の田中さんに伺うと
「阿蘇海は文珠水道でしか外海と繋がっていない閉鎖された、非常に特殊な海。かつ溝尻集落の辺りは河川が流れ込み、植物プランクトンが大量に発生するのでアサリにとって良い条件の海なんですよ」
なるほど、そんな良質の海で育ったアサリはさぞかし美味しいのでしょうね。
続いては、そのアサリの育成方法をご紹介します。
阿蘇海のプランクトンを食べて育つ「天橋立育成あさり」
取材に訪れたのは梅雨の合間の6月中旬。漁期の終わり頃にお伺いしました。
朝8時前、漁師さんたちが海岸に集合し、舟に乗って沖合に浮かぶ育成イカダへ向かいます。
イカダの広さは12m×8m。このイカダの下の海で豊富な植物プランクトンを食べ、アサリが大きく育ちます。
約1年で1㎝から4.5㎝に成長
アサリの育成のスタートは初夏。アサリと共に籠の中に入っているのは砂ではなく、アンスラサイトという水のろ過などに使われる無煙炭を砕いた黒い砂状の粒。
ここに溝尻周辺で獲れたアサリの稚貝を約150個入れ、深さ3mほどのアサリが好むプランクトンが沢山いる場所に沈めます。
なぜ砂ではなくアンスサライトを使うのかというと、アサリなどの2枚貝は砂に潜って育ちますが、アンスラサイトは砂に比べて軽いためアサリが潜りやすく、かつ籠を海中から引き上げる作業を行いやすいのだそうです。
さらにアサリの中に砂が入ることがないので砂抜きの手間がかからず、安心して食べられるという利点もあるそう。
初夏に海に沈めたアサリは植物プランクトンなど天然のエサを食べて順調に育っていきます。
そして12月に一度、アサリに付いたプランクトンや藻などを取り除いて掃除をし、再び海中へ。ここから冬の間は海の中で静かに過ごします。
再び籠を引き上げるのは翌年の4月上旬。定期的に籠の中やアサリの掃除を始め、5~7月上旬にかけて水揚げを行います。
最初、籠に150個も入っていた稚貝は、籠の中から海に流れ出てしまったり、死んでしまったりして最終的に5~60個に。大きさも最初は1㎝程だったのが(写真左)、5月頃になると4~4.5㎝もの大きさになっています(写真右)。
籠の掃除が必要となる理由が写真でお分かりになるでしょうか。
アサリの周りにはイガイ、粘着物質を出すホトトギス(これがアサリやアンスラサイトに絡まって掃除しにくいのです)、漁師さんたちがホヤと呼んでおられる透明のサルパというプランクトンなどが付いてしまうので、それらを丁寧に取って籠に戻し、また海の中に沈めるのです。
しかもイカダに吊るされた籠は約120個もあるので、全ての掃除をしようと思うとかなりの重労働。取材に訪れた日はまだ真夏には日があるとはいえ、午前中の海上はなかなかの日差し。全ての籠の掃除を終えるまでに3、4時間はかかります。
こうやって美味しいアサリを育てておられるのかと思うと漁師さんたちには、本当に頭が下がります。
ぷりっぷりで美味しい「天橋立育成アサリ」の食べ方
作業の後で、貴重なアサリを分けていただきました。
まずは、そのままの味を楽しもうと酒蒸しにしたら、これが驚くほど美味!!!
ぷりっぷりで滋味が深く、えぐみがありません。 そしてアサリの旨味が出たスープが美味しい!これだけ味が強いのだから、他の料理にしても負けないはずです。
そこで漁師さんたちから「ボンゴレビアンコも美味しいよ」と伺ったのを思い出し、作ってみました。
充実したアサリの旨味があり、ニンニクやトウガラシの味に全く負けていません。こちらは天橋立ワインと一緒に。あと、アサリご飯もオススメだそうです。
これからの「天橋立育成あさり」
こんなに美味しい育成アサリですが、現在、あさり部会の高齢化などから市場で回るほどの量が獲れないのが現状です。
漁師さん達も後継者が心配とおっしゃいますし、海洋センターの田中さんも「溝尻はアサリを育成するのにとても環境がいいところ。若手が継承していけたらもっと拡大できますし、良質なアサリが採れると思います」と太鼓判を押します。
そのような中、今、注目を浴びているのが、アサリの育成と共に行われている稚貝の販売です。
「初夏、周辺にアサリの稚貝が大量に発生するのですが、秋になるとなぜかほとんどいなくなるんです。そこで、育成あさり部会のメンバーさんたちとアサリの稚貝を捕って国内の養殖業者に売り、国産のアサリとして育ててもらう活動もしています」と田中さん。
宮津市のアサリの稚貝は美味しいと評判が良く、全国に出荷されているのだそうです。こんなに美味しい天橋立のアサリ。後継者も育って、食卓にたくさんの天橋立育成アサリがのぼる日がくるといいなあ、と願っています。