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【旧三上家住宅】町人なのに帯刀を許された?宮津随一の商家は一見の価値あり!

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丹後屈指の賑わいを見せた城下町であり、江戸時代から明治時代には商いをしながら全国を往来する北前船の寄港地でもあった宮津。今も大手川左岸の旧城下町エリアを中心に、当時の繁栄を感じさせる商家建築が点在しています。
今回は宮津有数の商家・旧三上家住宅を訪ねて、当時の賑わいや美意識が感じられる見どころと、そのおもしろさを探ってきました!

宮津に名を轟かせた商家・三上家とは?

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宮津市中心街の海辺を走る主要道路の一つ・国道178号から少し内陸側に入った路地を行くと、白い塗り壁が美しい見事な建物が現れます。ここが、宮津城下屈指の商家だった旧三上家住宅。主屋をはじめとする8棟が、国の重要文化財に指定されています。

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三上家の出自は明らかになっていませんが、一説では但馬国を支配した戦国大名・山名氏に仕えていたとも言われます。その後この場所で町人となり、初めは元結(紐類)の製造や販売を家業としたことから「元結屋(もっといや)」の屋号を得て、のちに酒造業や廻船業、糸問屋などを営みました。事業が成功するにつれて家格も上がり、宮津藩の客人の本陣とされることも多く、各界の名だたる人々が三上家を宿としました。
様々な商いで栄えた一方で宮津藩の財政や城下町の町政にも深く関わり、藩が逼迫した際には御用金や調達金にも応じたといいます。当主は町人ながら帯刀も認められたと言うから、その有力ぶりが分かりますね。
今回はそんな宮津有数の商家・三上家の屋敷の中を、宮津市教育委員会の河森一浩さんに案内してもらいながら覗いてみましょう。

住居と酒蔵、店ともてなしの間が一つになったスペシャルな住宅

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旧三上家住宅は家族が暮らす主屋に、新座敷棟や酒造施設、迎賓施設を増築して現在の形になったため、その間取りはなかなかに複雑です。入り口から主屋に入ると、まず目の前に広がるのはニワと呼ばれる吹き抜けの空間。ここは土間で、主に酒造りをするための場所。大釜を備えた釜場、麹室や検査室など酒造りのための独特の設備や道具類が残されていて、伝統的な酒造りの様子を窺い知ることができます。

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また、北前船に関する貴重な資料も。「宮津は北前船の寄港地として大いに栄えましたが、三上家は商品を卸していただけではなく、幕末期頃から廻船業に乗り出し、北前船を8隻ほども所有する宮津城下最大の船主でもありました」。航海の日記や品物の売買に関する記録が多く残っており、当時の廻船業の詳細を今に伝える重要な手掛かりとなっています。

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入り口近くには酒などを売っていた「ミセ」が備わり、「ニワ」の奥には「ダイドコ」と呼ばれる土間と板間が。「三上家の人々はここで食事を作ったり食べたりしていたようです。この先に続く『ナカノマ』や『オクザシキ』、『ナンド』など生活のためのスペースはあまり飾り立てられておらず、三上家の人たちが膨大な富を抱えながらも、堅実に家業に勤しんでいた様子が想像できます」と河森さん。

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こちらが、複雑な造りをした三上家の間取り図です。

重要な客人をもてなした、気品溢れる客間

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さらに東側には新座敷棟と庭座敷棟が続き、こちらには客人をもてなすための豪華な部屋が並びました。「ニワザシキ」と「ツギノマ」の2間で構成される慶雲館と呼ばれる庭座敷棟は、数寄屋風の書院造りを基調とする格式高い空間が広がります。宮津藩に出入りしていた庭師・江戸金の作と伝わる池庭を眺めることができ、四季折々の風情が楽しめます。

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「床柱には北山杉、床板には黒柿、彫刻が見事な欄間にはメノウなど質の高い素材が用いられ、座るとちょうど視線の高さに美しい庭が見える。この部屋には客人へのもてなしの気持ちが現れていますね」。「ニワザシキ」の北側は客人用の表門に繋がっており、天保9年(1838)に三上家が幕府巡見使の本陣に指定されたのを皮切りに、多くの賓客を迎え入れたと言います。

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庭に面した廊下を進むと、客人用の風呂場や茶室も備わっています。もてなしの準備は万全ですね。

火への用心が生み出した珍しい造り

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実は、三上家住宅は天明3年(1783)の「晒屋(さらしや)火事」で焼失しており、現在残っているのはその後に再建された建物。一度火に飲まれたことから防火への意識は相当に高かったようで、外壁は漆喰で塗り固められ、外部に面する柱を塗り込める大壁造とされました。

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さらに、窓や出入口だけでなく煙出にまで土扉を設けるという徹底ぶり。このように全体に土蔵のような耐火構造を施した住宅は大変珍しく、これも旧三上家住宅の建築のおもしろさの一つです。

垣間見える、宮津の文化の厚みと美意識

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「旧三上家住宅を訪れた際、ぜひ注目していただきたいのは、細部の意匠へのこだわりです。例えば、ところどころにある釘隠しの金具。蘭や葵、桃など部屋ごとに違うモチーフが使われ、目立たないところへの気配りが感じられます。ほかにも、来客時には豪華な、普段は質素なデザインを表側にして使えるようリバーシブルになっている天袋の戸など、遊び心が感じられる仕掛けもあちこちに」。

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そして、宮津の商家だからこその魅力を、河森さんはこう語ります。
「旧三上家住宅は、他の地域の北前船主の建物と比べると上品で手が込んだ造りになっています。宮津には景勝地・天橋立があり、古くから俳諧や絵画に関わる文化人などが集まっていたことから地域に文化が蓄積されており、そこから生まれた技術や美意識が惜しみなく反映されているのだと思います。贅を尽くしていながらも、飾り立てすぎず品があるところが魅力ですよね」。
旧三上家住宅を訪れたら細部にまで目を凝らして、城下町、そして港町として栄えた宮津に根付く確かな気品と文化を感じてみてはいかがでしょうか。

<データ>
旧三上家住宅
京都府宮津市河原1850
交通アクセス:京都丹後鉄道「宮津」駅から徒歩約15分、京都縦貫自動車道「宮津天橋立IC」から車で約5分
TEL:0772-22-7529
開館時間:9:00〜17:00(最終入館16:30)
休館日:水曜日、年末年始
ホームページ http://www.amanohashidate.jp/mikamike/

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